運動は“認知症予防のクスリ”になり得るのか?

2025.08.09

年齢を重ねると、「最近物忘れが増えた」「話の途中で言葉が出てこない」といった認知の変化を感じる人が多くなります。こうした変化の中で、「軽度認知障害(MCI)」や「アルツハイマー病(AD)」といった言葉が気になる方も少なくないでしょう。

これらは、進行すると認知症になる可能性がある状態です。では、それを防ぐにはどうしたらよいのでしょうか?薬?それとも運動?

そんな疑問に答えてくれたのが、イギリスの研究チームによるメタアナリシス(複数の信頼できる研究を統合した分析)です。この研究は、認知症の予防や改善を目的とした「運動」と、よく処方される薬「ドネペジル(商品名アリセプト)」の効果を比較したもので、世界中の質の高い研究を集めて解析しました。

研究の結果、軽度認知障害(MCI)の人にとっては、運動が薬よりも明らかに効果的であることが分かりました。具体的には、記憶力や思考力の改善、さらには気分の安定や日常生活の能力向上にもつながるという結果です。

アルツハイマー病の方については、運動と薬は同程度の効果という結果でしたが、運動には副作用がないという点が大きな利点です。薬には、吐き気、めまい、不整脈などの副作用が報告されていますが、運動はそういったリスクがありません。

分析の中では、特に効果が高かった運動のタイプも示されています。具体的には:

  • ・有酸素運動(ウォーキングやサイクリングなど)

  • ・筋トレ

  • ・バランス運動

これらを週2〜3回、1回30〜45分程度、少なくとも3か月間継続することで、認知機能の改善がみられたという報告が複数ありました。

さらに、運動による効果は、認知機能だけでなく、身体機能の改善、転倒リスクの減少、ストレスの軽減、そして生活の質(QOL)の向上にも関係しています。

この研究が教えてくれることは非常にシンプルです。

「薬を飲む前に、まず体を動かしてみませんか?」

もちろん、すでに薬を飲んでいる人も運動を取り入れることでさらに効果が期待できます。とくに中高年の方、親や祖父母の認知症が気になる方、自分自身の予防に関心のある方にとって、この研究結果は大きなヒントになります。

まずは、週2〜3回、30分のウォーキングから。軽い筋トレや体操を組み合わせると、より効果的です。

「記憶力が落ちてきたかも」と感じたら、それは「動き出すサイン」です。体を動かすことで、脳もいきいきとよみがえります。

PAGE
TOP