肩の腱板断裂は「肩の腱(けん)」が切れたり裂けたりする状態。じゃあ、その「なぜ切れるのか」「体の中で何がどう変わるのか」を見てみましょう。
切れやすくなる背景 ~なぜ腱板が弱くなるのか
腱板が断裂するには、いくつかの原因があります。これらが重なって、ある人の腱板が切れやすくなるのです。
・年をとることによる変化
腱板の組織は若いうちはしなやかですが、年を取るにつれて少しずつ水分が減ったり、血液の流れが悪くなったりして、強さや弾力が失われやすくなります。これが「退行変性(たいこうへんせい)」と呼ばれるものです。
・肩峰という骨とこすれ
肩の上方には「肩峰(けんぽう)」という骨のふくらみがあります。このあたりで肩を上げたり動かしたりするときに、腱が骨や周囲の組織に引っかかったり、こすれたりすることがあります。これが長く続くと摩耗して断裂につながることがあります。
・肩やその周りの動きの制限
肩甲骨(肩の後ろの部分)や背中側、肋骨の動きが悪くなると、肩全体の動作で腱板にかかる負担が増えることがあります。また、肩を動かすときに「回る」動き(外側へのねじれなど)がうまくできないと、他の部分に過度な力がかかります。こういう動きの悪さも断裂を促す因子です。
・靱帯(じんたい)や筋肉の硬さや肥厚
一部の靱帯が厚くなったり、筋肉がこわばったりして柔軟性が落ちると、肩の動きが制限されます。特に、肩を上げたり前後に動かしたりする時の「引っ張られる方向への抵抗」が大きくなることがあります。これが断裂や痛みを引き起こす要因になります。
切れたあとの変化 ~体の中で何が起こるか
腱板が断裂した後も、「切れたからすぐ痛み」「腕が動かせなくなる」というわけではありません。でも、以下のような変化が徐々に起こることがあります。
・肩の動きの制限(特に「回す」動き)
腱板が切れていたり、その周りの靱帯・筋肉がこわばっていたりすると、腕を外側にねじったり後ろへ回したりする動きがしにくくなることがあります。この「回す動き」が制限されると、日常動作(服を着る、肩を後ろに回すなど)で不便を感じるようになります。
・痛みの出方
断裂そのものの痛みもありますが、多くの人では「夜、寝ているときの痛み」が強くなります。肩を使っていない時でも痛みが出ることがあり、これは腱板やその周りで炎症(熱を持ったり腫れたりする状態)が起きていたり、断裂部分が動いてしまったりするからと考えられています。
・肩関節拘縮(かたかんせつこうしゅく)
「拘縮(こうしゅく)」というのは関節が硬くなって動きが制限される状態。断裂があって、それをかばおうとして動かさなかったり、痛みで動かすことを避けたりすると、関節の動かす範囲が狭くなってしまいます。こうなると、断裂以外の部分――靱帯や関節の袋(関節を包む膜)など――にも硬さが出て、さらに動きづらくなるという悪循環が起きます。
・広がる断裂や他の筋腱への影響
断裂が小さなものなら自然に留まることもありますが、負担が大きい状態が続くと、断裂が広がることがあります。また、断裂していない他の腱や筋肉も、肩の機能を補おうとして無理が生じたり、硬くなったりすることがあります。こうなると腕を上げたり横に広げたりするときの力が弱くなることもあります。
「断裂=手術」ではない
腱板が切れていても、必ずしも手術が必要になるわけではありません。断裂の大きさだけでは判断できません。
・小さな断裂や切れが浅いものは、動きをよくする運動(リハビリ)や肩周りの動かし方を改善することで痛みが取れたり日常生活に支障がなくなったりすることが多いです。
・逆に、断裂が広い、痛みが強い、肩の回す動きがかなり制限されている、または夜間痛がひどく生活に影響しているときなどは、手術を考えるケースが増えます。
こんな人は要注意
もしあなたがこういった状態なら、腱板断裂の“病態”が複雑になってきている可能性があります:
・肩を回す動き(後ろに回す、腕を外側に回すなど)がずっとできなくなってきた
・肩・背中・胸あたりの柔らかさが失われてきて、動かしにくくなってきた
・夜間痛が強くて眠りが浅い、夜中に痛くて目が覚めるなどが繰り返される
・痛みをかばって肩をあまり動かさない期間が長くなった
こうしたときは、早めに整形外科や理学療法の専門家に相談するといいでしょう。動きの悪さや筋肉・靱帯のこわばりは、改善の余地があります。