運動前に行うストレッチと聞くと、多くの方が思い浮かべるのは、じっくりと筋肉を伸ばす「静的ストレッチ」ではないでしょうか。昔から準備運動の定番として行われてきましたが、近年「運動前に静的ストレッチをするとパフォーマンスが落ちる」という研究が話題になり、混乱している方も多いと思います。ジャンプが高く飛べなくなったり、瞬発的な力が出にくくなったりする、といった報告もあり、「ストレッチは運動前にしない方が良い」と言われることも少なくありません。今回ご紹介する研究は、その疑問に改めて答えてくれるものです。
研究の結果わかったのは、「ストレッチの長さ」が筋力やパワーに与える影響を大きく左右するということです。1つの筋肉を伸ばす時間が1分以内であれば、筋力やパワーの低下はほとんど見られず、あっても1〜2%程度とごくわずかでした。つまり、短めのストレッチであれば日常的な運動や健康づくりの範囲では問題なく取り入れることができるということです。一方で、60秒以上かけて長く伸ばす場合は注意が必要です。研究では筋力やパワーが4〜7%ほど低下する傾向が見られ、特にスポーツの試合や記録を競うような場面では、この小さな差が結果に影響する可能性があります。
さらに重要なのは、ストレッチを単独で行うのではなく、他の準備運動と組み合わせることです。軽いジョギングやその場で体を動かすダイナミックなストレッチと一緒に行うことで、体温が上がり、筋肉の働きが活発になり、静的ストレッチのマイナスの影響はほとんど打ち消されることが分かっています。つまり、「短めの静的ストレッチ+動的な運動」という組み合わせが、柔軟性を高めながらもパフォーマンスを維持できる理想的なウォーミングアップの形なのです。
もちろん、日常的に体を動かす人や健康維持が目的の人にとっては、短めのストレッチを取り入れることは非常に有効です。筋肉を柔らかく保つことで関節の動きがスムーズになり、怪我の予防にもつながります。ただし、トップアスリートや試合本番など「1%でも力を落としたくない」という状況では、静的ストレッチを行うタイミングや方法を工夫する必要があります。例えば、試合直前ではなく、練習の始めや前日のコンディショニングで取り入れる、あるいは行った後に必ず動的な運動を加えるなどです。
今回の研究から得られる大きな教訓は、「ストレッチは悪いのではなく、やり方次第で味方にも敵にもなる」ということです。運動前に取り入れる場合は1分以内を目安に短く行い、体を動かす準備とセットにする。これだけで、ストレッチのメリットを活かしつつ、パフォーマンスを落とすリスクを最小限に抑えることができます。
結論として、静的ストレッチは完全に避けるべきものではありません。むしろ柔軟性の向上や怪我の予防という面では大切な役割を持っています。ただし「長くやりすぎない」「運動と組み合わせる」という2つのポイントを意識することが、ストレッチを賢く活用する鍵になります。皆さんも、日々の運動やウォーミングアップにこの考え方を取り入れて、体を安全かつ効果的に動かしてみてください。








